釣りを長年やって来ている身としては気になるタイトルだ。
と言ってしまったこともあり、読後感想文を記しておこうと思う。
サカナが釣れる釣れないは、エサの良し悪しで決まるわけだが、釣りはエサ釣りだけでなく、ルアーや毛バリなどの疑似餌を使った釣りもある。タイトル中にあるエギとはイカを釣るための疑似餌のことで、和製ルアーと言える。サカナの最前線に送り込む一番大事な部分であるエサと疑似餌の色・匂い・味・成分・硬さ・音といった要素を科学的に迫っていこうという試みだ。思ったように釣果が上がらない、隣の人は釣れているのに自分だけは釣れないなど、ベテランでさえこうしたことは釣りを続けている限りつきまとう大問題なのだ。
釣りは『1場所、2エサ、3仕掛け』と言われるのだが、釣り道具にお金をかけたりする割には、釣りエサについては安易に済ませてはいないだろうか。当日釣り場近くにあるエサ屋さんにあるものを購入して釣り始める。もちろん現地の事情に合ったエサを選んで釣りをすることは基本ではあるのだけど、対象魚に合わせてもっとそれぞれのエサの特徴を把握しておいた方がより多くのサカナが釣れるはずですよ! ということなのだ。カバー表紙の折り返しの袖に「釣りエサを制するものは釣果を制する」とあります。
エサ(餌)と言ってもその種類はかなりの数に登り、大きく「エサ」と「疑似餌」に分けられます。「エサ」は生エサと加工エサの2つになります。生エサはさらに生きエサと貯蔵エサ(生きていない、死んでいる状態のもの)になります。加工エサは粉末状のものが多いですが、練りエサやオキアミに混ぜて使うための配合エサというものがあります。そして疑似餌にはルアー(プラグ、スプーン、スピナー、メタルジグ、エギ、角、ワームなど)、毛バリなどがあります。これらについて色・匂い・味・成分・硬さ・音から考察していくのだが、釣りエサ(加工エサ)の開発に長年携わって来た著者ならではのエピソードは興味深いところだ。
エサを使った釣りならば、狙うサカナによく使われるエサの味、匂い、成分、鮮度、大きさが適しているかを気にします。一方ルアーなどの疑似餌については、大きさ、形、色、音、動きが選択の要素になります。疑似餌なのだからと見た目本物のエサに近い状態にしたものから、こんな形の生き物はいないだろというルアーなどがあります。釣り場に着いてから、いや、釣りに行く前からエサや疑似餌に関してだけでもこれだけのことを考えないといけないのだから、釣りというのは本当に面倒臭いアクティビティです。
加工エサの開発研究の流れでエサの状態に近いものに仕上げたワームを使って『疑似餌のカラーとタチウオの釣果』つまり色によって釣果に差は出るのか、実験の結果がありました。ちなみにワームというのは、ざっと言ってしまうとポリ塩化ビニール(塩ビ、ソフビ、ビニール)にプラスチック素材を柔らかくする可塑剤を混ぜて見た目イソメやゴカイ、カニ、エビのような形にしたものです。中には生エサに近い味や成分が仕込まれているものもあります。これらをタチウオ釣りに使用し、ルアー釣りでは特に気になる色の違いで釣果に差は出るのかという実に興味深い実験です。蛍光色のもの、オキアミカラーのもの、ピンクの3種類を交互に延縄仕掛けに装着して出た結果はいかに…
どれにも偏ることなくほとんど同じ釣果だった。ということです。
その日が晴天か曇天かで光の量が違ってくると、当然色によっても釣果の差は出るものだとなんとなく思っているルアー釣り師にとってはなにそれ? の結果です(苦笑)。疑似餌の釣りだとその日狙うサカナが何を食っているかの情報を集めて、イワシならイワシのカラーを模したルアーを選び、それで釣れると自分の戦術戦略に間違いはなかったという満足感を得るのがうれしいわけです。ところが色による釣果の差はほとんどなくどの色のルアー(ここではワーム)にも食って来たという結果です。釣具屋さんに行くとひとつのルアーに対して多ければ20種類以上のカラーバリエーションを持つものもあって、色やそこに描かれている模様なども重要な要素だと思っているルアー釣り師からすれば開いた口が塞がらない結果です…。もっとも別の水域や水深、時間帯でやればまた違った結果が出る可能性があるとしていますが…。
本書の第10章は『最適なエサ、ルアーのサイズとは』です。大きなサカナを釣りたいと思うなら、それに見合った大きめのエサを付けたり大きめのルアーを選んだりするのが基本と思い込んでるところがあります。そのサカナを釣るためにエサ釣りがいいのか疑似餌の釣りがいいのか、またはそれがエサ釣りの対象魚なのか、疑似餌の対象魚になるのかを判断する手段として『鰓耙(さいは)』が鍵となる話です。
鰓耙とは、サカナの外見でいうとエラ蓋の内側にある器官のことです。普通エラって言ってますが、料理をするときには必ず取り除いておかないと不味くなるというあの部分です。鰓耙、鰓弁(赤いびらびら)、鰓弓から成っていてエサを吸い込んだときに水は排出し、エサを漉し取る器官ということになります。この鰓耙の数、濾し器としての目が粗いか細かいかでどんな状態のエサ、疑似餌が適しているのかがわかるということです。鰓耙の数が多いサカナほど小さな、細かな植物性のエサを食い、鰓耙の数が少ないサカナほど大きなエサを食うということがわかるわけです。
普通なかなか『鰓耙』の状態まで調べることはなく、加工エサ開発に携わる著者ならではの記述に目からウロコの思いです。こうした実験結果や本文中『コラム』として書かれている数々のエピソードはこれまで気にもしなかったことや、釣りエサの開発のためにここまで成分分析していたことなどの徹底ぶりに驚くところが多々あります。
また直接エサの話ではなく、エサをつけるハリに結ばれている糸、ハリスについても太さの関係やそれがサカナに見えているのかを暗い状態で実験したりなど、やはり釣り人が気になっている部分でも検証されています。釣りエサ開発者の前に釣り人である著者の、こだわりがあってこその釣りエサ開発人生が垣間見られて楽しい一冊となっています。釣りをする人、しない人も魚類に関心のある人にはオススメです。
本書を最後まで読んでみて、まだもっと釣れる釣りエサ、疑似餌の開発の余地は残っているのか!? と思ったりします。今現在エサとして利用されていないものが、使ってみたらよく釣れたとエサになる可能性もある。それでも、それでもやっぱり釣りは行ってみないと釣れるかどうかはわからない。昨日まではよく釣れたんだけどねぇ…とか天候激変で止む無く中止に追い込まれたりと、釣れない理由はエサや釣り道具にばかりあるわけではない…。
釣れても釣れなくても、また釣りに行きたくなるものなのです。